泡消し機の開発ストーリー:どぶろく造りの泡との戦い

醗酵タンクで起こる「泡問題」とは?

どぶろくを仕込んでいると、醗酵によって大量の泡が発生します。

これまで、タンクに泡笠(タンクの高さをかせぐもの)を設置したり、櫂入れのたびに泡を消してから作業をする必要がありました。

醗酵中に発生する泡の管理は非常に重要です。

清酒酵母が出す泡は、単なる副産物ではなく、醗酵の状態を知るための重要な指標でもあります。
泡の勢いを見ることで、酵母が元気に働いているか、醗酵が順調に進んでいるかを判断することができます。
そのため、泡の管理は単なる作業負担の軽減だけでなく、より良い醸造のためにも重要なポイントなのです。

それでも泡がタンクからあふれてしまうことがあり、ロスが大きな課題となっていました。
貴重な酵母を含んだ液体が無駄になってしまいます。

なお、弊社のどぶろくで醗酵中に泡が立つのは赤色清酒酵母を使用している「ピンどぶ」のみで、それ以外の製品は泡なし酵母(一番多く使用しているのが協会1001号で、01は泡なし酵母という意味です)を使用しています。

試行錯誤の末、ついに完成

そこで、泡消し機を自作することにしました。

泡消し機自体は市販されていますが、弊社では200Lの小さいタンクで製造しているため、サイズに合わせた小型のものを作成することにしました。

これまで多くの清酒酒造メーカーでは「泡番」という専門の役割を担う方がいて、その技術と経験が酒造りに欠かせない大切な要素となっていました。
その重要性を認識し、泡消し機を自作することで、より精緻な製造環境を整え、品質向上に繋げたいと考えています。

設計メモ(1)
設計メモ(2)
設計メモ(3)

最初はArduinoでプログラミング制御する方法や、昇降圧コンバーターで電圧を調整してモーターを動かす方法など、さまざまな選択肢を検討しましたが、最終的にはリレーモジュールを活用する形に落ち着きました。
これにより、シンプルながらも安全に動作する設計が実現できました。

設計メモ(4)

今回の泡消し機は、タンクの上面に木の角材を橋掛けして、その上に設置する形で作成しました。
リレーモジュールを使用し、一定の間隔でモーターを作動させる仕組みになっています。

このリレーモジュールは、タイマー機能を備えており、設定した時間ごとに自動でオン・オフを切り替えることが可能です。
モーターのオンとオフがタイマーの無限ループによって制御されるため、夜中など人がいない時間にも泡消し機を作動させることができます。
つまり、無人でも泡を消してくれるので、24時間体制で効率的に泡の管理が可能になります。

モーターにはギアボックス付きのものを選定しました。
通常のモーターでは回転数が速すぎて泡を飛び散らせてしまう可能性があるため、ギアを使って回転数を抑え、泡をゆっくりと混ぜることができるタイプを採用しました。

日頃から醸造室は整理整頓を心がけておりますが、一時は電子工作グッズに占領されてしまいました。
自分で準備しておきながらも、思わず『ここは実験室か?』と思いました。

実際に作り始めると、さまざまな課題に直面しました。

モーターと電源の選定
どのくらいの回転数が適切か、どんな電源で動かすのが安全か、試作と調整の繰り返しでした。
リレーモジュールを使ってタイマー制御をしようとしましたが、想定通りに動かないこともありました。

電気回路の問題
最初、リレーが一瞬だけ動作して止まる現象が発生。
調べてみると、リレーのCOM端子と電源の接続に微妙な違いがあり、なぜかLED付きの配線では動くが、普通の配線では動かないという謎の現象に遭遇しました。結果的に、適切な抵抗を入れることで解決し、安定して動作するようになりました。

泡を混ぜる部分の設計
泡を効率よく消すための形状も悩みどころでした。
最終的には、市販のワイヤー洋服ハンガーを加工して使用することで、シンプルながら効果的な構造に落ち着きました。
見た目は少し簡素ですが、煮沸消毒を行い、衛生的に問題ない形で仕上げています。

実際に使用してみて

実際にどぶろく(ピンどぶ)の仕込み中に使用してみました。

泡のロスがゼロに!
これまでタンクの泡があふれることで失っていた酵母や液体が、一切無駄にならなくなりました。

作業効率アップ!
櫂入れの際に泡を消してから作業する必要がなくなり、仕込み作業がスムーズに。

品質向上にも貢献!
泡による酵母のロスがなくなったことで、醗酵の安定性も向上。赤色清酒酵母のピンク色も余すことなく瓶詰めできるようになりました。

最初は「オフ30分、オン5分」の設定にしていましたが、実際には泡が1分程度で収まるため、「オン1分」に変更。
モーターの負担も減らしつつ、効率よく泡を処理できるようになりました。

▶ 実際に動く様子を動画でどうぞ!

櫂棒と並んでコンパクトに収納できました。

今後の改良と展望

第一弾として完成した泡消し機ですが、まだ改善の余地はあります。

現状のワイヤーハンガー部分も、今後はより見た目も美しく、耐久性の高い素材に変更することを検討中です。

今回の泡消し機の開発を通して、ものづくりの楽しさや、ちょっとした工夫で作業の効率を大幅に向上させることができるという実感を得ることができました。

今後もどぶろく造りをより良いものにするため、試行錯誤を続けていきたいと思います。


どぶろくファンの皆さま、今後とも楽しみにしていてください。