酒田醗酵のどぶろく 美味しさの秘密「麹造り」編

はじめに:どぶろくの味を決める「麹」の重要性
どぶろく造りにおいて、麹はまさに「酒の設計図」と言える存在です。
醗酵の主役である酵母の働きを支え、甘みや旨み、香りの基盤をつくるのが麹。
「麹がなければ発酵が始まらない」と言っても過言ではありません。
どぶろくの個性は、この小さな菌たちの働きによって大きく左右されます。

酒田醗酵の麹造り
麹は蒸米に麹菌を繁殖させたもので、麹内で生産された酵素の作用によって蒸米を分解・溶出するだけでなく、麹菌の代謝産物(糖分、アミノ酸、色素、芳香など)が酒の風味を形成します。

麹が作り出す酵素の働きによって、お米のデンプンは糖に、タンパク質はアミノ酸に分解され、同時に酵母の栄養源になり、どぶろくの甘みやコクが生まれます。
さらに、麹菌の代謝によって香りや色合いにも影響を与え、酒の風味を決定づける重要な役割を担っています。
ストーリー(1):蒸米の完成
蒸し上がった米を放冷台に広げて、温度と水分量を整える作業が始まります。
麹づくりに適した蒸米に仕上げるためには、水分量と温度が重要です。
表面だけ冷えていても、中が熱すぎると麹菌がうまく繁殖しません。
米を広げ、手でほぐしながら、米の一粒一粒の感触を確かめます。
温度計と手のひらから伝わる感覚で、適温に近づく瞬間を見極めます。

ストーリー(2):種切の儀式
適温になった蒸米に、麹菌を振りかける「種切(たねきり)」の工程に移ります。
均一に菌が付着するよう、丁寧に、慎重に。
まるで大地に種をまくかのように、静かで繊細な作業です。
息吹を吹き込まれた麹米がこれから数十時間をかけてゆっくりと育っていきます。

製麹機の導入
当初、弊社では市販の乾燥麹を仕入れてどぶろくを製造していたため、麹室の設備がありませんでした。
しかし、より理想的などぶろく造りのために、製麹機を導入し、自家製麹に切り替えました。

池田機械工業株式会社(山形県)製、こうじ発酵機「こうじ君」です。
吟醸コシキ「むす蔵君」からバトンタッチされた蒸米を麹米に仕上げる頼もしい存在です。
むす蔵君については「蒸米編」で紹介しています。
最大60kgの麹を一度に製造可能なうえ、自動温度制御で麹室に近い温度・湿度環境を再現し、衛生的かつ安定した麹を生産します。
とはいえ、導入当初は麹の温度を思うようにコントロールできず、試行錯誤の連続でした。
使い方も工夫を重ねる
本来の使い方とは異なる方法も試しています(メーカーの方には怒られそうですが…)。
通常の方法では麹米を袋にまとめて1つの塊にしていましたが、麹が窒息してしまっている感覚があり、
「盛り」の工程を再現するために、内部を3段構造にして麹を薄く広げるようにしました。
これによって麹の仕上がりが均一になり、香りも良くなりました。
また、本来はコンピューターでプログラムされた管理機能を使えば、最初から最後まで自動で管理できる製品ですが、
あえて自動機能を使わず、マニュアル操作で温度や内部ファンの挙動を調整しながら管理しています。

衛生管理も徹底し、麹袋は使用前に必ず煮沸消毒し、本体は入念に洗浄・乾燥。
さらにオゾン発生器で消毒することで、雑菌のリスクを抑えています。
ストーリー(3):こうじ君の出番です
種切を終えた米は、製麹機「こうじ君」の中へ。
布でくるみ、湿度と温度を適切な状態にして、麹菌の繁殖が始まります。
この瞬間から、米は「米」ではなく、「麹米」へと変わる旅を始めます。

ストーリー(4):切り返し
時間が経つにつれ、麹菌が繁殖し、米同士がくっつきはじめます。
ここで「切り返し」という作業が入ります。
固まりすぎた米をほぐし、できるだけ一粒一粒が均等に醗酵できるように。
温度が下がりすぎないように、手早く、丁寧に行います。

種麹の選定
種麹とは、麹を作るために使用する麹菌の胞子を乾燥させたものです。

酒造用の種麹は多種多様ですが、「〇〇を使えば理想の味になる」というわけではなく、自社のどぶろくに合ったものを見つける必要があります。
現在、弊社では最適な種麹を探し、さまざまな種類を試しています。
種麹の種類だけでなく、添加量によっても麹の出来が変わるため、配合のバランスを調整しながら日々試行錯誤を重ねています。
麹造りの現場
麹造りでこだわっているのは、
- 品温の最高温度までの過程(もっていきかた)
- 麹を締めるための水分調整のタイミング
麹を育てる環境は、まるで生き物の世話をするようなものです。
小さな機械の中ですが、麹菌にとってはまさにそこが「畑」です。
最適な環境を整え、健やかに育てることを心がけています。
また、切り返し作業などは手作業で行い、麹を手早く処理しながら温度が急激に下がらないように気を付けています。
どぶろく製造の中でも骨の折れる作業ですが、愛情を込めて取り組んでいます。
香りの変化や手で触れた感覚、こうした感覚的な要素も大切な経験となり、次の製造にも活かしています。
ストーリー(5):手入れと層の入れ替え
製麹機の中は三段構造。 上の層、真ん中の層、下の層、それぞれの温度や湿度に微妙な違いがあります。
ここで、層を入れ替える「積替え」の作業が行われます。
適宜、上下を入れ替え、全体のバランスをとる。 麹菌が元気に育つ環境を整え、最良の状態へと導きます。
また、外側と内側では品温と水分に差が出てくるため、手入れをして平均化します。
ストーリー(6):仕舞い仕事
最後の仕上げに入ります。ふわっと軽やかに仕上がった麹。
製麹機の蓋を外し、水分を適度に飛ばす。味の締まりを決める重要な工程です。
理想の麹
世の中には良質な市販の麹もありますが、私たちはあえて自分たちの手で麹を育てています。
その理由は単純で、「この味が欲しい」というこだわりがあるからです。
理想としている麹は、
- 噛むと上品な旨味をわずかに感じるもの
- どぶろくの発酵中に適度に溶け、旨味と香りを生み出すもの

そのために、
- 蒸米のさばけを良くする
- 麹の水分量を適切に管理する
などの工夫を行っています。
ストーリー(7):出麹の瞬間
こうして、麹が完成しました。手に取ると温かく、やさしい甘い香りが立ち上ります。
何十時間もの間、見守り続けた麹が、ついにどぶろく造りの次のステージへと進みます。
ひと粒ひと粒に、手間と想いを込めた麹。
酒田醗酵のどぶろくの要となる、大切な存在です。
目指すのは「一口飲めば広がる、心地よい甘みと優しい香り」
試行錯誤を重ねながら辿り着いた、私たちの麹造り。
手間も時間もかかりますが、この麹があってこそ、私たちのどぶろくが生まれます。

「この味が好き」と言ってもらえるどぶろくを届けるために、これからも麹と向き合い続けていきます。